片桐が、運転席にドンと足を乗っけた。
「忘れ物を拾ったら、すぐに戻ってきて」
「あの、さっきから言ってる、忘れ物って?」
レン子の、はじめての質問だった。
けれど、帽子を深くかぶった片桐は、うんともすんとも言わなかった。
とすぐに、帽子の下から、スース―と寝息が聞こえてきた。
(もう・・・どうすればいいのよぉ)
しかたなくドリーム号を出る。
レン子は雄大な山を見て、あらためて吐息をもらした。
(ヒマラヤ山脈? ・・・アハハ、まさかね)
しかたなく、歩く。
なぜか、レン子は目の前の山が気になっていた。
だから、もくもくと歩いた。
砂利の道は、思いのほか歩きやすかった。
まるで見えない力にでも、導かれているような気分がした。