『たびいえさん』の著者・北川チハルさんに聞く(1/2)

たびいえさん書影

北川チハル(きたがわ ちはる) 愛知県生まれ。保育士を経て絵本・童話作家になる。『チコのまあにいちゃん』(岩崎書店)で児童文芸新人賞受賞。『おねえちゃんってふしぎだな』『ともだちのまほう』(ともにあかね書房)、『はなちゃんのはなまるばたけ』(岩崎書店)、『わたしのすきなおとうさん』(文研出版)、『いちねんせいがあるきます!』(ポプラ社)、『ハコくん』(WAVE出版)、『いないいないおかお』『みてみておてて』(ともにアリス館)などの作品がある。京都府在住。 北川チハルWEBSITE

絵本や幼年童話などたくさんの作品を世に出されている北川チハルさん。
今年(2015年)の春に、くもん出版より『たびいえさん』という心温まる童話を上梓されました。
豊かな発想はどこからくるのか、北川チハルさんにお聞きしました。

― エイッと一歩踏み出した時、何が起きるのか ―

――『たびいえさん』は、もともと「毎日小学生新聞」の連載だったそうですが、連載は書き下ろしと比べて大変ですか?

いいえ。工夫は必要ですが楽しいですよ。書き下ろしとは違う仕掛けを用意する、というところが特に!・・・なーんて書いた後は言えますが、依頼を受けて書きだすまでは、毎回(だいじょうぶやろかぁ、ほんまにわたしにできるんかなぁ・・・)と思っています。でも書き出したら、「大変」よりも「楽しい」が勝ちますね。書いている最中に途方に暮れることもありますが、「当たって砕けてまた当たれ」「ちょうどいいから挑戦しよう」って自分に言いきかせています。

つづきものって、前の内容を忘れてしまうことが多いので敬遠しがちだったんですが、依頼をいただいて、新聞や雑誌の連載を読んだり、テレビの連続ドラマを見たりするようになりました。一回一回の山場の作り方やつなぎを自分なりにつかもうとして。これって、とっても楽しい仕事ですよね!

――『たびいえさん』では、読者にどのようなことを訴えたかったのですか?

読者さんに訴える、という言葉がピンとこないので、何を表現したかったか、に置き換えて、お答えしてもいいですか?

ひとりぼっちで淋しくて、身動きできない主人公が、エイッと一歩踏み出した時、何が起きるのか、書きたかった。連載が年度末だったので、歩き始める主人公の新しい旅を読者さんと一緒に楽しめたら、そんな気持ちもありました。単行本にする際に大幅に加筆修正したので、連載とはずいぶん違う雰囲気になったと思いますが、表現したかったことは同じです。

私はいつも私の表現したいことを読者さんへ伝えられるように努力して書きます。それが作者にできる読者さんへの精一杯のプレゼントだと思うからです。でも、読者さんには作者の想いなど気にせずに自由に物語を味わってほしいと願っています。それが本の楽しみ、読書の喜びだと思うから。

『たびいえさん』を読んでくださった方々からもいろんなご感想をいただいています。出会い、家族、自立、勇気、友情・・・ああ、そこを一番に受けとめてくださったんだなあと、読者さん一人ひとりのすてきな感性にふれるたび、作者の私は幸せを感じています。

――『たびいえさん』は家が旅をするというとてもユニークな内容ですが、どういうことがきっかけで発想されたのでしょうか?

もともと「家」が好きなんです。それで『まどのおてがみ』という家のパーツをクローズアップした絵本を書いたこともあったんですが、いつか「家」そのものを主人公に物語を書きたいと思っていて、試作は重ねていたんです。

小さい頃から「家」ってなんだろう、そこに住まう人とのつながりってなんだろう・・・とよく考えていて。それは私が家の中で自分の居場所をうまく見つけられない子どもだったことが影響していると思います。

結婚を機に実家を出る直前、阪神・淡路大震災で嫁ぎ先の家を失いました。仮住まい生活の中で娘を授かって、新しい家族の暮らしをなんとか築いていこうとやっと見つけた今のわが家は、開発半ばでバブルがはじけた山の上のニュータウン。家具もカーテンもないからっぽの古家に入ったとき、とても家が優しく感じられて、「ここから始めていいんだ」と涙がこぼれました。いっぽうで不便な山の生活に見切りをつけて町へ出る人も後を絶たなくて、無人になった家々がとても寂しそうに見えました。

もし動けるものならば、家だってきっと一緒についていきたかっただろうにと・・・。そんなこんなが重なって、私の中でいつしか自然に『たびいえさん』は生まれたんだと思います。(つづく)

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