シッポでさよなら(3/3)

文・山庭さくら   絵・志村弘昭

中庭には行かなかったけれど、ぼくはやよいさんのことが心配で、何度か近くまで行ったこともあります。
半年たったころには、やよいさんのかなしみは、少しうすらいだようでした。

ある時、ぼくは、家の中がバタバタとそうぞうしくなり、部屋の中にダンボールがつまれていくのに気がついたのです。
《もしかしたら、やよいさんは、おひっこしするのかな》
明日がやよいさんのおひっこしという日のことです。
ぼくは、さいごのあいさつをしに行くことにしました。
どうしても、やよいさんに、今までのお礼が言いたかったし、「元気にくらしています」ということもつたえたかったのです。
やよいさんは、近所のお姉さんと立ち話をしていました。
「これまでいろいろお世話になりました。ひっこすといっても、それほど遠くはないから、また遊びにいらしてね」
やよいさんがお姉さんに、そう話しているときに、ぼくはその横をゆっくり通りすぎました。
やよいさんは、すぐにぼくだとわかってくれました。
でも、そのお姉さんが、あんまりネコがすきじゃないことを知っているので、はっとした顔はしたものの、それまで通りお姉さんと話をしながら、だまってぼくにしせんを送ってくれました。
「今まで、ありがとうございました。ぼくは元気でやっています。だから安心して、おひっこししてください」
そうニャア、ニャア言って、ぴんと立てたシッポを3回ふりました。
しっぽで3場面 やよいさんにもその言葉はとどいたようで、ほっとした様子でした。
そして同時にさびしそうな顔もしました。
「さようなら、やよいさん。やよいさんもお幸せに!」
ぼくは、もう一度、やよいさんに大きくシッポをふって、後ろをふり向かず、歩いて行きました。

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山庭さくら について

山庭さくら(やまにわ さくら) 愛媛県出身。大好きな童話作家は浜田広助。 図書館での読み聞かせ、児童養護施設でのボランティア、大学病院の小児科でのボランティアでの読み聞かせを行ってきて、童話や絵本の大切さを実感。 2006年に出版した『ウータンタンのおはなし』は、大分県の夏休み課題図書に選ばれる。 その後、依頼で『不思議なコウモリ』や『シッポでさよなら』などを創作。これまで作った作品は20以上。読み終えた後に、心がほっこりする童話を書きつづけている。 HP:幸せつなぎスト

志村弘昭 について

風景画からユニークな楽しい絵まで、幅広いタッチの絵を描く。 自身で作った、武蔵野市の民話を中心とした紙芝居でボランティア活動を行い、老人ホームでの高齢者や、商業施設での子どもたちに大人気。 また、警察署から頼まれ、交通安全の紙芝居なども作っている。