ラムネスイッチ(5/5)

文・小林雅野  

ピキッ。
小さな音がした。
回っていた公園が、足の下で、ピタリと止まったのがわかる。
うすーく、目を開けてみた。
前に立っているのは、あいつ、じゃない。
ようちゃんだ。
くつのかかとのはしっこで、ラムネスイッチをふんづけているけど、気づいていない。

ぼくは、そーっと、あたりの様子をうかがった。
あいつのすがたは、どこにもなかった。
「どうしたの」
ようちゃんが、不思議そうな顔をする。
「そっちこそ。英会話は?」
「うーん。おまえと、けんかしたまま行くの、いやだ、って思ってさ」
「ふーん」

ぼくは、ゆっくり立ち上がった。
まだ、足元が回っているみたいだ。
「もしかして、ぐあい悪い?」
ぼくの顔色を見て、ようちゃんが言った。
「ん。ちょっとね」
「帰ったほうがいいよ」
「うん」
ようちゃんは、公園のすみに転がっていた、ぼくのボールを取って来てくれた。

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小林雅野 について

(こばやしまさの) 東京都出身。早稲田大学教育学部卒。一児の母。子育てしながら文筆活動、里山保全活動をしています。 旧姓:西沢での著書に『イボ記』(小学館)。表題作は女子大生の足指のイボをめぐる異色青春小説。併録の『おしえない』は黄面と呼ばれる異形たちの国に迷い込んだ人間が出会う不条理奇譚。現在は電子書籍ストアにて発売中(イボ記』)。 ブログ:糸の器ブログ HP:糸の器