四郎とオレ(5/7)

文・中村文人  

「幸平くん、どうだった?」
「四郎、あかんわ、『決定事項です』の一点張りで話にならん」
「そうか、やっぱり・・・」
四郎はオレの話を聞いて、また青緑色になってしまった。
「でもな、電話会社の人がおまえを見たいってついてきたんや。おじさん社員で、あんまりたよりにならんみたいやけど」
オレは和田さんを手招きした。
「四郎くん、やっぱりきみだったか、四郎くん!」
和田さんは、急に四郎をなでまわしだした。
「その声は和田さん、和田さんやないですか!」
四郎は受話器をがたがた鳴らした。
「なんや、二人とも知り合いか?」
「そうなんです、私が20年前に点検係りをやっていたころからの友だちで、四郎という名は私がつけたのです」
和田さんはハンカチで四郎をていねいにふきはじめた。
「四郎くん、あれからもずっとがんばってくれていたんだね。きみのことは、私がなんとかしよう」
「和田さん、あんたの力でほんとになんとかなるんか?」
見かけで決めてはいけないが、どうも和田さんはたよりなさそうだ。
とりはずしの期日がせまっているいま、オレは和田さんに、四郎のことをよくよくお願いをした。

ゆがむ四郎ところが3日後の夕方。
「やめろ! 四郎をとりはずすのは」
「そうだ、ひどいぞ」
新宿東口に大声がひびいている。
「四郎くんがかわいそう」
女子高生が泣き出した。
たくさんの人が見守るなか、二人の電話会社の職員が無言で四郎をはずした。
「四郎! 四郎!!」
四郎はオレの悩みをあんなに親身になって聞いてくれたのに、オレは四郎の力になってやれなかった。
職員に運ばれていく四郎の悲しそうな顔が、オレの目に焼きついた。
あの和田め、「私がなんとかしよう」なんて調子のいいこといったが、なにもできなかったじゃないか。
あんなおっちゃん社員に四郎のことをたのむんじゃなかった・・・。

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