幻想的な世界を体験できる

月夜のみみずく 書影月夜のみみずく
ジェイン・ヨーレン 文
ジョン・ショーエンヘール 絵
工藤直子 訳
偕成社

本・音楽、また実体験であれ、子どもの頃にたくさんのものに触れるというのは、とても大切なことと感じます。子どもたちは、多くのことと触れ合う体験をすることで、想像をする力を養うものだと思います。

私の息子たちは、インターネットの創世記からITとともに育ちました。私は自分の子どもの頃とまた違った学習・世界観で育つことのできるツールに感謝をしながら、ずいぶんIT機器も活用し、子育てをしてきました。
でも、やはり自分の想像力を働かせる前に、答えや画像・動画が瞬時に出てしまうものだけでは、イメージ力を育むという点では弱い気がしました。まず頭の中にイメージして、心を移入してみること、親子でいろいろな実際の体験をすることも大切にし、そのためのひとつに、毎日の親子の読書の時間を取ってきました。
今思うと、それは「教育」というよりは、何よりも、共有した時間の思い出、それを心の絆として残せる時間としても大切だったなぁ、と思っています。

ご紹介するアメリカの絵本” OWL MOON “ (『月夜のみみずく』)は、アメリカの児童図書館協会が、最も優れた子ども向け絵本に毎年授与しているコルデコット賞を1988年に受賞した作品です。
1930年代生まれの作家・詩人ジェイン・ヨーレンの作品に、ジョン・ショーエンヘールが画を添えた美しい絵本です。この本は、息子たちが幼稚園の頃、一緒に読みました。

アメリカの東部、深い雪に閉ざされた地方の農場に住む家族。その父と娘が、蒼い月の夜にミミズクを探しに出かける話です。
寒いけど、ちょっと大きな子みたいに振舞いたくて、がんばって一生懸命雪の中を歩いて行った女の子。煌々とした月の照らす夜、その中に響くのは、父と子の息遣いと、雪を踏みしめる音だけ・・・。それが、ヨーレンの言葉少なの美しい詩で語られます。

この絵本の画家、ショーエンヘールの美しい水彩画には、白い部分が多く残されているのですが、月に照らされてはいるものの、夜の暗い感じもイメージされます。原野のつもった雪の絨毯の上にくっきりと映える裸木の影。雪の冷たさ。風のひんやりと頬に当たる感じ。しーーんという音が聞こえるほどの静寂。凍てつくような寂しい光景とも感じられるのに、なんて温かい印象なんでしょう! その幻想的な世界を、まるで体験しているように、はっきりと心の中に感じることができます。

埼玉県の里山地帯に育った私の原風景には、雪景色の月夜の原野や、ミミズクを見ることさえも体験したこともないのですが、この本を読んでいると、主人公たちと一緒に、アメリカ東部の森の中に一緒にいるような気持ちになってきます。
ミミズクの視点から(?)見下ろしたような構図もあり、不思議な想像の体験ができます。イメージが出来るってことは、大人になってからでも、とってもステキな持ち物になるのです。
さて女の子は、ミミズクには出会えたのかな? そこはここでは秘密ですので(笑)、ぜひお読みになってくださいね!

1 / 11

久美子 ローレンス について

明治生まれの祖父母・大叔母と、能楽師の両親と、昭和30年代の埼玉の里山で、和の世界・四季折々の田園の自然に触れて育つ。絵を描くことと図書館が好きな少女時代、漫画を描くことにも傾倒。アメリカ人のアジア演劇研究者と結婚。ふたりの子育てを終えてから、再び絵を描きだし、40代にして墨絵に出会う。能楽物語、インド古典など、世界の文芸をテーマにしたオリジナル作品を夫と共同制作。アメリカの文芸誌Parabola Magazine などに古典文学シリーズを連載中。米国シアトル在住。ウェブサイト:Sumi Kumi Works