楽園のクモ(1/3)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

若くて血気盛んなアドニスは
自分を愛する女神の忠告も聞かずに
狩りにでかけてしまいました・・・
(ギリシア神話「アドニスとアフロディテ」より)

むかし、凍える山おろしもじめつく潮風もとどかない、美しい野原での話です。
一面の花むしろを分けて流れる澄んだ小川のほとりに1本の大きなユリの木が立っていて、幾千もの花々が、年中、風に吹かれて、カラコロリン、カラコロリンと、きれいな音楽を奏でていました。
野原にはたくさんの生き物たちが暮らしていましたが、中に、とても食いしん坊のハナアブがいて、ある日、このユリの音楽堂に迷い込んできました。
楽園のクモーユリの木「しまったな。甘い蜜を求めて夢中になっていたら、こんなところに出てしまったぞ」
ハナアブはきょろきょろとあたりを見回しました。大きな白いユリが重なり合うように咲いていて、甘い香りでむせかえるようです。
「ここは女神様が大切にしているって場所だ。おいらが長居できるところじゃないぞ。さっさと出なくちゃ」
ハナアブは、あわてて、帰り道を探し始めました。ところが、じきに、花の間で忙しく働いているクモを見つけました。

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伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井県福井市在住。 『指輪物語』大好きのトールキアン。その上にトレッキー(「スター・トレック」ファン)でシャーロキアン(「シャーロック・ホームズ」ファン)と、世界3大オタクをカバーしている。

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。