あり得ないことがてんこ盛りの「礼儀作法の本」

そんなとき書影『そんなとき なんていう?』
セシル・ジョスリン 文
モーリス・センダック 絵
たにかわしゅんたろう 訳
岩波書店

会社員として働いていると、得意先や著者の先生方へのあいさつはとても重要だ。あいさつひとつで機嫌を損ねる先生もいるから、とても慎重になる。しかし最近の若いスタッフたちのあいさつはどうだ。「ありがとうございます」を「あざ~す」などと目上の者にも平気で言う。この「若者あいさつ」は私の神経に触る・・・。
「今どきの若い者は」などと言うのは、自分が歳をとった証でもあるが、やはり小言のひとつも出てしまう。そんなことを悶々と考えていたところに出会ったのが本書だ。

本書を開くと「わかき しんし しょくじょの ための れいぎさほうの ほん」という一文が目に飛び込んでくる。う~ん、私の気持ちを分かってくれているではないか。

しかしだ。ページをめくるたびにあり得ないシチュエーションが出てくる、出てくる。わんさか出てくる。街で赤ちゃんゾウをみんなにあげている紳士が出てきたり、街に買い物にきた時、後ろ向きに歩いていると巨大なワニにぶつかったり・・・。あり得ないことがてんこ盛りだ。

でもその出来事に、登場する男の子や女の子が「はじめまして」や「どうもありがとう」「ごめんなさい」と、まっとうなあいさつをするのだ。あり得ないシチュエーションとあいさつのギャップが愉快で、思わず笑ってしまう。

絵は『かいじゅうたちのいるところ』で知られるモーリス・センダックだ。余談だが、本書は『かいじゅうたちのいるところ』より20年前に描かれたものなので、絵のタッチが違うところも興味深い。

子どもがあいさつをきちんとできなかった時、親は「ちゃんとあいさつしなさい!」「なぜ、あいさつできないの!」と怒りモードでしつけることが往々にしてある。でもこれではあいさつができないと怒られる、というトラウマが子どもに働いてしまうのではないか。本書を読んであげて、楽しく笑いながら、あいさつという礼儀作法を覚えてもらうほうが絶対に身につくと思う。

年末年始のテレビ番組も楽しいが、本書も楽しい絵本なので、ぜひお子さんといっしょに読んでみてほしい。

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