ぐるぐるとおせんぼ (1/4)

文と絵・満月詩子

雨と雨のすきまから、青い空がこっそり顔をのぞかせる午後。水のはった田んぼでは、せいれつしたイネの苗が、緑をかがやせていました。
その水に波もんが広がりました。そして、苗の間から、白いなわのようなものが、にゅるんと出てきました。
(カエルがいねぇ。あぁ、はらへった)
ヘビのシマ吉です。シマ吉は、田んぼをすいっと泳ぐと、あぜ道にはい上がりました。
白色の地に赤い横しまもようのウロコが、太陽の光をキラキラとはんしゃします。
(あいつ、赤と白のシマシマでへんだよなぁ)
(外国生まれなんだと。人間に育てられていたからって、インテリなのをはなにかけやがってよっ)
他のヘビたちは、シマ吉の見た目や、人間の言葉がわかることがおかしいと、仲間に入れてくれません。
なので、小さいころ、ゲージをぬけ出して帰れなくなったシマ吉は、それからずっと、ひとりぼっちでくらしてきました。毎日のごはんの用意も、決して楽ではありません。
(シマ吉よ、なんてきみわるい)
(あぁ、こわい。食われるぞ! にげろ~)
シマ吉の白いウロコは、茶色と緑に囲まれた自然の中では、遠くからでも目立ちます。
ウロコかがやくと、カエルたちは、あの赤くするどい目ににらまれる前にと、ぴょこん、ぴょこんとにげていきます。
(カエル、全然いないじゃねえか。しかたねぇ。少し遠くまで行ってみるか)
シマ吉は、ホカホカと体をあたためるお日さまにてらされながら、はっていきました。
どのくらいすすんだでしょう。田んぼからずいぶんはなれてしまったようです。木やコンクリートに頭上をおおわれ、見える空は少なくなっていきました。

シマ吉は、おなかがすいて、すっかりつかれてしまいました。見ると、目の前に大きなシイの木があります。すずしげなこかげが、まるで「休んでおいき」、とシマ吉をさそっているようです。シマ吉は、シイの木のかげでまるくなると、目をつぶりました。
「わぁ、白いヘビだ。へんな色」
「うへぇ。おい、だれかさわってみろよ」
「ええっ、こわい」
がやがやとした声にシマ吉は目をさましました。半月のような赤い目を声にむけます。
「う、うあぁ、目、開けた。にらんでる」
「きもちわる~い。にげろ~」
声の主たちは一目散(いちもくさん)に、にげていきました。
(なんだよぉ)
ぐるぐるとうせんぼ挿絵1ねぼけ眼(まなこ)のまま辺りを見回したシマ吉は、自分を見つめる女の子と目が合いました。
かたでぱっつりと切りそろえたかみに丸い顔。その中の大きな目にすいこまれそうです。
「あんた、なにヘビ? きれいねぇ」
女の子は、そうっと手をのばすと、シマ吉の頭をやさしくなでました。むねには、「2ねん1くみ みずきあかね」と書かれた名ふだが見えます。
「あ! アカネちゃん。あぶない、かまれるよ」
シイの木の後ろから、声だけが聞こえます。
(こんなにやさしくなでられてるのに、かむもんか。おれにだって、フンベツってものはあるんだからな)
シマ吉は、ぎろりとシイの木の後ろを見ました。
小さな男の子が、こっそり様子をうかがっています。
「アカネ、あんたと友だちになりたいなぁ」
アカネは、頭をなでながら、にっこりとシマ吉にほほえみました。
(そうかぁ。そんなに言うなら、なってやらんでもないぞ)
シマ吉は、とくいげに鎌首(かまくび)をもたげました。
アカネたちには、「シャー」という音だけが聞こえます。
「かまれるよ! アカネちゃん」
シイの木の後ろから、男の子が飛び出してきました。小さな体を前に出し、アカネを守るかのようにひょろんとした両手を広げています。
「だいじょうぶだよー、トオル。ヘビさんやさしいよ。気持ちいいからなでてごらんよ」
ケロリとしたアカネの声に、トオルはホッとして手を下ろすと、アカネをふりかえりました。
「ほんとう?」
うなずくアカネにこわごわと手を出したトオルに、シマ吉は、ゆっくり頭をむけました。
「本当だ。ぼく、はじめてヘビにさわったよ。しっとりしてて、つめたいっ」
「でしょう。白と赤できれいだよね~」
うっとりと、アカネはシマ吉をながめます。
「そういえば、おばあちゃんが、白ヘビは神さまのケシンだって言ってた。紅白はめでたいから、このヘビさん、もっとすごい神さまのケシンだよ」
「本当! すごいね~。ぼくたち、神さまと友だちになっちゃった!」
アカネとトオルは、顔を見合わせると、うれしそうに笑いました。
そのとき、白い建物の方から「キンコーン」とチャイムの音がひびきました。
「あ、行かなきゃ。またねヘビさん」
アカネとトオルは大きく手をふると、白い建物のほうへと走っていきました。
(ふふん。人間の友だちも、悪くないな)
これまで、こわい、きもちわるい、とさけられるばかりだったシマ吉です。自然と、口のはしがもち上がります。
シマ吉は、「アカネって言ったな。アカネは友だち。おっと、トオルも友だち」と、何度も二人の名前をつぶやきました。
それからシマ吉は、アカネとトオルに会うために、シイの木の周りをうろつくようになりました。
アカネは、シマ吉の姿を見かけると「ヘビさーん」とうれしそうに顔をほころばせます。トオルも楽しそうに、アカネの後をついてきます。
二人の笑顔に、シマ吉は春のおひさまをあびたような、ほんわりとした気分になっていきました。

満月 詩子 について

(みつき うたこ) 佐賀県生まれ、在住。学校図書館勤務を経て、福祉関係の仕事に就く。現在は、仕事以外に、ボランティア活動なども行いながら、絵本や児童書の創作を続けている。日本児童ペンクラブ、日本児童文芸家協会会員。 2012年、『その先の青空』で、第15回つばさ賞、佳作に入選 おもな著作に、『さよなら、ぼくのひみつ』【『さよなら、ぼくのひみつ』(国土社)に収録】。『たまごになっちゃった?!』【佐賀県DV総合対策センター発行】、『あかいはな」』【『虹の糸でんわ』(銀の鈴社)に収録】などがある。