ことばのつけものやさん 3/5

文・中村文人   絵・堀江篤史

リスくんの顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっています。手を見ると、ヤギさんからもらった袋がパンパンにふくらんでいます。

「どうなっているんだ?」

リスくんは、ふくろをそっとあけてみました。

「のろま!」「おまえのようなやつは!」

イノシシ店長のどなり声です。リスくんはあわてて袋の口をしめました。

「うわー、袋が、店長のことばをすいとってる! よーし、これをつけものにしてもらおう」

リスくんはヤギさんのところにいってみましたが、たるだけがおいてありました。

「ヤギさーん、あれ、いないなあ。悪いけど勝手につけさせてもらおっと」

そこには、黄色に茶色、白、オレンジのたるがありました。

そこには、黄色に茶色、白、オレンジのたるがありました。

「どれを入れたら、店長のことばがなおるつけものができるのかな。よし、全部入れてやれ」

リスくんは、小さな手で、すべてのたるのぬかを何杯も袋にいれました。そのたびに「こののろま!」と、店長のどなり声がもれてきます。

「ひー、店長だ」

リスくんは、ひっしに袋をふりました。

中をのぞいてみると、くろっぽいものが10切れもできています。

「店長のことばのつけものはまずそうだけど、店長に食べさせてやる!」

リスくんは、急いでお店に帰りました。

 

「おい、リス、どこへ行ってた!」

店長は、チャーシューを切りながら、横目でにらみました。

「て、店長。これを食べてみてくれませんか?」

「ふん、なんだ、つけものか」

「ぼ、ぼくが、つけてみたんです」

店長がひときれつまみました。ボリボリ。

「うえー、なんだこの味は。こんなものをつけに、店をさぼっていたのか、このやろう」

店長は、おたまをリスくんになげつけました。

「店長のオレ様をばかにしやがったな!」

「ひえー、ごめんなさーい」

リスくんは、また店をとびだしていきました。

 

「おや、リスくん、どうしたんじゃ?」

ヤギさんが、青い顔をしたリスくんに声をかけました。

「ヤギさんのいないときに、店長のことばをつけものにしたの。それを食べさせたら、店長はもっときついことばになっちゃったんだ」

リスくんは、袋の中の残ったつけものをみせました。

「おやおや、これを食べさせたのかい? よしワシがつけかたを教えてあげよう」

ヤギさんは袋に新しいぬかを入れて、リスくんにわたしました。

リスくんは袋をふりました。

ジャンカ、ジャンカ、ジャンカ。

「中をみてごらん」

「ぜんぜん変わってない! 黒いままだ」

リスくんは、袋の中とヤギさんの顔を交互に見ました。

「リスくんは店長のことを責めながらふらなかったかい」

「えっ?」

「『店長のやつ、いまにみてろ』っておもいながらではだめなんじゃ。店長がやさしいことばになって、みんなと楽しく仕事ができますように、と心をこめてふってごらん」

ヤギさんにいわれ、リスくんは、目をつむり、祈るような表情で袋をふりました。

シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ。さっきとちがって軽やかな音がしています。

「もういいじゃろう。袋をあけてみてごらん」

袋の中から、黄金にかがやくようなたくあんができていたのでした。

「ワシが、これを店長に食べさせてやろうか」

「ほんとう? 店長のことばは、なおるよね」

リスくんとヤギさんは、歩き出しました。

「ワシのつけものは、ことばを直すことはできるが、その人の気の持ち方も大切なんじゃよ」

「じゃあ、ぼくも気持ち次第で、店長がこわくなくなって、ちゃんとはなせるようになる?」

リスくんは立ち止まってヤギさんをみつめました。

「そうとも。ワシのつけものは、しっかりきくんじゃ。あとはリスくんの気の持ち方じゃよ」

「そうかあ」

リスくんは、ヤギさんの顔をみあげました。