ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(2/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

2 一難去ってまた一難

「急いでいるのか?」
聞かれて時計に目をやると、まだ、9時過ぎだ。
「いいえ」
「そんなら、寄ってけ」
「と、言われましても。見ず知らずの方の、」
「見ず知らず?」
策作じいさんの視線が、空を泳ぐ。

「おまえは、キツツキ。そして、わいは?」
「佐熊山策作さんです」
「ほーれ!」
確かに、見ず知らずではないけれど。
詳細に知っているのは名前だけ。
片眉上げて、まるで鬼の首をとったように得意げな顔されるほど、見知っているわけでは断じてない。
けれど、一体全体、このじいさんは、なんなんだ?
湧き上がる好奇心に、あたしは負けた。
「まずは、スイカでも食おう」
「はいっ!」
でも、一番負けたのは、大好きなスイカにか・・・。

「ついてこい」
策作じいさんに案内されて、古くて大きい木の門をくぐる。
門の両側から、板塀がぐるりと屋敷を取り囲んでいる。
門から玄関にたどり着くまで、数分はかかりそうだ。

「おまえ、キツツキはこの辺の者ではないな」
軽快な後ろ歩きで、策作じいさんが問う。
「はい。旅の者です」
「ということは」
「はい。見物に」
ここ、越の国地方にも、興味ひかれる風習があるのだ。
あたしは、それの見物に来た。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。