ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(9/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

あたしたちは、てくてく歩いた。
川に寄り添っては離れ、離れては寄り添う道を、てくてく、てくてく歩いた。
花盛り町大字細八字猪甲乙を抜けたようで、地域の表示は、壁屋敷町猿雉、梅ノ木坂乙平と変わっていく。
てくてく、てくてく、てくてく、歩いていると、いつの間にか、道は、山懐に導くように、ゆるい傾斜を描きはじめる。
木々が、燃える日差しをさえぎり、熱くなった体に、冷たい風が吹き抜ける。
と、前方に橋が見えてきた。

「もう、ひとふんばりや」と、策作じいさん。
渡った橋を背にして、左が下流だ。
山道を、少し、下る。
夏草に隠され、姿は見えないが、水の流れる音が近い。

「着いたで」
策作じいさんは、
「ここから、川原に下りるんや」
と、足を止めた。
道沿いに、丈高い草が、わさわさと茂っている。
「ここから、ですか?」
「そや。先に行き」
策作じいさんが草むらを指し示す。

「はあ?」
この短パンとサンダルで、このわさわさの中に、分け入れと?
「わいは、年よりやさかい・・・、」
けほっ、けほっ、ってそのわざとくさい咳、見え見えなんですけど! っと、つっかかるのもなんなので、一瞬だけ、ガンつけて、
「わかりました!」
と、足を踏み入れる。

「気いつけや、足、」
「わーっ!」
サンダルの底に地面は、なかった。
「踏み外さんように、ゆうても、もう、遅いなあ」
「・・・はい」
急な斜面があるのなら、早くください、その情報。
けど、まっ、無事着地したからよしとする。
目の前に突然現れた、ステキな景色に免じて、よしとする。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。