オニの忘れた子守歌(1/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

おまつの声はくぐもりました。
「おまえがいなくなるってことだよ、おとっちゃんのように・・・」
小糸は、父親が、急にふせって、間もなく、死んでしまった時のことを、ぼんやり、覚えていました。
何だか、とてもさみしく、まわりが、がらんと広くなったものでした。

「あたいがいなくなったら、おっかちゃんは、どうするの?」
小糸は、立ち止まって、母親を見上げました。
「そうだねえ・・・」
おまつは、小糸のやわらかい、暖かい手をにぎりしめて、じっと、考えました。

そして、ぼそりと、言いました。
「おまえがいなくなったら、おっかちゃんは山に入って、オニになるしかあるまいよ」
その顔が、あんまり、暗く、おそろしげに見えたので、小糸は、思わず、手をはなして、ばあさまのそばにかけよったのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。