オニの忘れた子守歌(1/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「助けてくだせえ、名主様!」
「こりゃあ、おまつのばあさまでねえか! なじょした!?」
ばあさまは、ぶるぶると、庄兵衛に手を合わせて、言いました。
「おまつが、だんだんと、おかしくなりすてす。先だっては、うらの木の根方ば、素手でほって、眠ってたヘビを食いした。おとついは、にわとりが、1羽のこらず、いねぐなり、きょうは、きょうは・・・」

「ああ、じれってえな!きょうは、なじょしたんだてば、ばあさま!?」
「わしを見ながら、ぺろぺろ、舌なめずりしすてば!」
ばあさまは、「わあん」と、泣き出しました。
「そいつあ、大ごとだ。だれぞ、おまつば見さ行ってこ!」

庄兵衛は、すぐに、人を走らせましたが、あれ果てた家のどこにも、もう、おまつの姿はありません。
その晩のうちに、ばあさまは、高い熱にうなされて、死んでしまいました。
それから、村に、だれ言うとなく、不気味なうわさが広がりました。
「おまつは、山さ入って、オニになったんだと」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。