オニの忘れた子守歌(2/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「そしたら、でたらめ、言いいすな!」
庄兵衛は、強く、人々をたしなめましたが、
「んでも、名主様、ちかごろ、あっちの家でも、こっちの家でも、ニワトリやら、犬っこやらがいねぐなりしてす。何かが悪さしてるにちがいねでば」
みなの心配は強まるばかり。
そして、まもなく、本当に大変なことが起こったのです。

「名主様! 池のはたの三郎次の赤子がいねぐなりした!」
「一本松の八兵衛のわらしこもです! あと、あっちの家でも、こっちの家でも!」
「な、なんとした!」
これでは、庄兵衛も、のんびり、かまえてはいられません。

「さしずめ、性悪なクマか、オオカミのしわざだべおん。ここはマタギの五平さんにたのむべ」
マタギというのは、クマ狩りの強い猟師のことです。
庄兵衛と村人のたのみに、
「よっしゃ、まかしてけらいん!」
五平は、ドンと、胸をたたきました。

そして、自まんの鉄ぽうをかつぎ、太郎、次郎という、勇かんな兄弟犬を連れて、のっしのっしと、山に入って行きました。
ところが、それほど時もたたないうちに、五平が、真っ青な顔をして、山から、かけもどってきたのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。