オニの忘れた子守歌(2/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「なずした、五平さん!?」
「なずしたも何もねえ!」
五平はその場でこしをぬかし、はあはあ、息を切らして言いました。

「おらたちが山道ば登って行くと、林の中から、身の毛もよだつオニが現れて、あっという間に、2匹を食っちまったのしゃ!おら、あしたらおっかねえ目したの、初めてだ! ああ、太郎、次郎! おめらを助けてやれねくて、すまねえ!」
ひげ面の五平が、子供のように、おんおん、泣くのですから、村人たちは、もう、居ても立ってもいられません。
すぐに、庄兵衛の家で寄り合いました。

「なじょすべえ・・・?」
「なじょすべなあ・・・?」
みな、うで組して、考えます。
「こりゃあ、もう、お殿様にたのむしか、あるめえ」
「んだ、んだ! どうぞ、名主様、お城さ行って、お殿様にお願えしてけさいん!」
村人たちは庄兵衛に頭を下げました。
「しかたねな。おっか、おらの裃(かみしも)、用意しとがいん」
庄兵衛はため息をつきました。

次の朝、庄兵衛は、裃を着て、お城のお殿様に会いに行きました。
庭先に土下座して、庄兵衛は、上座しきのお殿様に申し上げます。
「おらほの村は、山のオニのため、たいそう、なんぎしてござりす。今日までに、村のわらしこ、6たりがさわられてござりす。田畑の肥しにするかれっ葉、集めることもなんねえし、たな田や段々畑も、放ぽったまま。焼き畑して、かぶっこ、作ることも出来ず、このままでは、お城にお納めするお年貢にもさわりが出んでねべかと・・・」
「なに!」
年貢にさわりが出ると聞いて、お殿様は目をむきました。

「それは一大事! じゃが、心配はいらぬぞ。すぐに、余の家来から、手練れを送ろうからに」
「へへへえ!」
庄兵衛は、思い切り、地面に額をすりつけました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。