オニの忘れた子守歌(4/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

それは、ずっと無住だったお寺に、急に、旅のお坊さんが住み付いたことと、何か、関係があったでしょうか?
といっても、このお坊さん、やせっぽっちのひょろひょろで、色あせたつぎはぎだらけの着物から、でこんぼうのような手足が、にょっきり、のびているすがたは、畑のかかしのようです。

「ぷはあ。なんちゅう、みっともねえ坊さまだなや。いってえ、どっから流れて来たもんやら」
「あれで、ろくに、経が読めるんだべか?」
「ほんでも、寺ば空けておくよりましだべおん。そうじぐれえはするだべからな」
というわけで、お坊さんは、めでたく、村に受け入れられました。
喜んだのは子供たちです。
お坊さんが家々を托鉢(たくはつ)に回るたび、子供たちは、大はしゃぎで、そのあとをついて行き、おかしな歌で、はやしたてました。

こじき坊主、くそ坊主
ボロがさ、ボロけさ、てんてん坊~・・・

無理もありません。
お坊さんの衣は、やけに、小さく、すそはツンツルテンで、それに破れたすげ笠をかぶると、てるてる坊主みたいだったのです。
でも、お坊さんは腹を立てるでもなく、いつも、にこにこしています。
子供たちは、いつの間にか、すっかり、なついてしまいました。
そして、はき清められたお寺の境内に、毎日、集まるようになりました。

お坊さんは、子供たちのようすを、目を細めて見守っていました。
時には、いっしょに、こまを回したり、手まりをついたりすることもありました。
そのうち、
「どうれ、いろはでも教えようかな」
と、子供たち相手に、手習いをし始めました。

これには、村人たちも、
「なかなか、見どころのある坊さんでねえか」
と、感心し、母親たちなどは、わざわざ、おかずをこしらえて、届けるようにもなりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。