ナイト(1/5)

文・中村文人  

「ナイト! ナイトじゃないか!」
「お、おまえは・・・」
ふいに名前を呼ばれて、オレは身をかたくした。
「おいらだよ、12地区のネズミの、いやだなー。おいらのこと、忘れちまったのかい?」
「お、覚えてるよ、ふとっちょトーマス」
「そう! でも、『ふとっちょ』はよけいだぜ。おまえ、大ケガしたと聞いたけど、だいじょうぶだったのか?」
「ああ・・・」

オレはネコのナイト。まっ黒だからそう名づけられた。
生まれてすぐに捨てられたオレを、街のネズミたちが育ててくれた。だからネズミと仲よく話ができるのだ。
ところが2年前のある日、オレは車にひかれ大ケガをした。
道ばたで息も絶え絶えのオレを、化学者で、外科医である神田博士が、体にたくさんの機械を入れて、サイボーグとしてよみがえらせてくれた。
でもそのことは、だれも知らない。

「いっしょに遊んでた仲なのに、おまえ、なんか冷たくないか?」
「オレ、ちょっと用事があるんだ。すまない、トーマス」
「そうだったのか。最近、仲間がどんどん行方不明になってさ。12地区はヤバいんだ。ナイト、おまえも気をつけろよ」
トーマスは手をふりながら、背をむけた。
写本 -sozai_29538「今だ!」
オレは、身を低くしてジャンプ!
するとオレはヒョウほどの巨大ネコに変身。そして背中からホースを伸ばしながら、トーマスに近づいた。
シュー、シュワーン! 
「うわー」
トーマスは、あっという間にホースの中に吸い込まれていった。
シュー、シュー。ぶきみな音を残した。
そのあと、おれは12地区のネズミというネズミを片っ端から捕まえていった。