ハトのオイボレ、最後の冒険(5/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

10回り。
にぎやかなビル街や、アーケードの商店街を飛びこすと、緑豊かな公園が現れます。
その先は静かな住宅街。家々の屋根が、明るい日差しの下で、さまざまな色、さまざまな形に光っています。
いくつもの橋にかざられ、町を流れる広い川。その河川じきでも、風が吹くたび、木々の葉がきらきらしています。そして・・・。
「海だ!」
とうとう、水平線が見えました。オイボレは、今や、町で一番高いビルのてっぺんにせまっていました。

「ということは、蔵王は・・・」
オイボレは、チェシャに習った方法で、南西方向を探します。
「あった! あれだ!」
すぐに、それとわかりました。近くの山々より、それは、ひときわ高いだけでなく、うっすら、雪をいただいていたからです。

「よし、行くぞ!」
と、その時、オイボレは、ビルのガラス窓に映った自分を見て、ぎょっとしました。いつの間にか、自分の真上に、焦げ茶色の大きなつばさが、音もなく、せまっていたのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに