四郎とオレ(3/7)

文・中村文人  

久しぶりに四郎のところに行くと、四郎の色が青緑色になっている。
「どうしたんや、なんか顔色が悪いで。働きすぎとちゃうか」
「幸平くん、ちがうんや。ぼくは今月でとりはずされることになってしもた」
「なんやて!」
オレはもう少しで、受話器を落とすところだった。
顔色悪い四郎ケータイやスマホが増えたせいで、公衆電話を利用する人がへった。だから代金をかせげない公衆電話を、電話会社がとりはずすことになっているそうだ。
「でも、行列ができるくらい、かけにきてたやないか。四郎はもうけてるはずやで」
「じつはな、悩み相談してるときは、ぼく、お金とらんかったんや」
四郎はランプを力なく点滅させた。
「なんで?」
「本来の通話とちがうから、お金とるわけにはいかんし。それに悩み相談がすんだら、みんなスマホかけて、ぼくを使ってくれへんから・・・」
「四郎は正直すぎるで。よし、オレが電話会社にかけおうたる」
オレは受話器をおいて、ポケットからスマホをとりだした。
「あっ、すまん、すまん。いつものくせで」
オレは頭をかいた。
「ほら、みんなそうなんや。スマホばっかり」
四郎はむくれた。
「そうおこるなって。ええと、電話会社は」
オレは四郎のプッシュボタンをおした。
「もしもし、新宿東口の四郎、いや、公衆電話をとりはずすってきいたんですけど」
「はい、係のものとかわります」
女性の冷たい声がひびいた。
「はいはい、えーっと、新宿東口の緑の公衆電話ですね。型が古いうえに、利用者も少ないので、5月いっぱいでとりはずさせていただきますが」
今度は男の声。事務的な話し方だ。
「でも、スマホ持ってない人もいるから、ここに公衆電話がないと困るんとちがいますか」
「そうおっしゃられても、決まったことなんですが」
「じゃぁ、あと10日で利用者が増えたら考え直してくれますか」
「無理だと思いますが、いちおう検討させていただきます」
係の男は事務的で、オレの申し出を真剣にとりあおうとしなかった。
よーし、見てろよ。絶対に四郎を救ってやる!
オレはすぐ佐藤くんに、四郎の危機をラインで伝えた。佐藤くんは友だちに四郎のことを知らせてくれた。四郎の危機はメールやラインで次々に広まり、1時間後には四郎のところに電話をかけに来る人がやってきた。
翌日からは、四郎のところに長い行列ができた。
「四郎くん、がんばって。負けたらだめよ」
みんな悩み相談もそこそこに、テレカを手に電話をかけた。できるだけ長い時間、長距離でかけた。なかには国際電話をかける人もいた。

「四郎、どうや、だいぶんかせいだやろ」
「うん、幸平くんのおかげや。どんどんぼくを使ってくれて、うれしいわ」
四郎は、元気よくランプを点めつさせた。
「あした、電話会社に行って、四郎のことお願いしてくるわ。帰りによるからな」