太陽がほしかった王様(5/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

このときです。ふと、太陽の音が止み、あたりは、しいんと、静かになりました。
「いったい、どうしたことだ・・・」
水兵たちは手を止めて、太陽に目をやりました。驚いたことに、太陽は、あみの目から、ふんわり、にじみ出て、どんどん、ふくらんで行きます。そのやわらかい光で、海も、空も、見渡す限り、きらきらと、赤く、まぶしくそまっています。なのに、なぜか、少しも熱くありません。それどころか、すがすがしい風さえ、吹いて来ます。

「ああ、何と美しいのだろう・・・」
提督や水兵たちは、あみもオールもすっかり忘れて、涙を浮かべ、ただ、うっとりと見とれていました。それがマガタの船隊の最後でした。
すとんと夕陽が落ちた時、「夕べの神殿」の人々が見たものは、夜空いっぱいの星の下を、たった一人の水兵が、けんめいに、泳いでくる姿でした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに