正直な王様ハンス(2/3)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「お待ち!」
鋭い声とともに、木の葉のすそを引いて、森の魔女が入ってきました。
腰のベルトには、あの金の靴がぶらさがっています。
魔女は、あっけにとられている人々には見向きもせず、アウロラに近づいて、その額に、細長い指先で、軽くふれました。
たちまち、アウロラは白い鳥になって、窓から飛んで行ってしまいました。

「ああ、何するだ」
びっくりしたハンスは、魔女につかみかかろうとしました。
でも、魔女が、さっと、手を上げたとたん、体がガチンと固まって、動くことができなくなりました。大臣も、兵隊たちも、みな、同じです。
魔女は、その間をゆうゆうと歩き回ったあと、ハンスの前に立ちました。

「心配はいらないよ。私は、その昔、王妃に約束したことを果たしに来たまでさ」
「そんなことは知らねえ。すぐに、アウロラさまを返してくろ」
くってかかるハンスを、魔女は、じっと、見下ろしました。
「おまえは、本当に、心から、アウロラのためを思っているかい」
星々の後ろに沈む暗やみのような、何とも底知れない目です。
「思っているなら、しばらく、辛抱をおし。人が幸せになるためには、賢くなくちゃならない。そのために、あの娘は、ひとり、遠くへ旅をして、広い世界を知らなくちゃならないのさ。おまえには、その間、ちゃんとこの国を治めて、あの娘の帰りを待っていてほしいんだ。どうだい、できるかい」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに