水のお城(2/6)

文・伊藤由美  

2 森の魔女

森の魔女アルセイダと湖の精リムニー。ふたりは、長い間、にくみ合い、争って来ました。
なぜかって・・・?
それは長い長い別のお話なので、いつか、また。
ともあれ、リムニーはたびたび湖をあふれさせて、アルセイダを森ごと、しずめてしまおうと試みてきました。
でも、いつも、失敗に終わりました。
それというのも、アルセイダには秘密の武器があったからです。

森の魔女たちにずっと昔から伝わる水晶玉。
それを持っている者には、どんな災いの力もおよびません。
リムニーは、それに、ふれることすら、できなかったのです。

「何とか、アルセイダから、あのいまいましい石をうばい取る方法はないものか」
しゅうねん深く、考え続けていたところへ、のこのこやって来たのが、国を追われて行き場のない、さすらいの王子ディドーだったのです。

「しかし、王国を建てるためとはいえ、こんな痛い目に合うとはな・・・」
王子は血のしたたる足の痛みをこらえて、湖の精に言われた通りに、くり毛の馬を森の奥へと進めます。
日の暮れるころ、年ふりてこけむした大木の下に、木の皮と枝でふいた魔女の家がやっと見えたとたん、王子は気が遠のいて、どっさり、地面に落ちました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに