猫アンテナ狂想曲(13/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

キャロちゃんのタイヤは掘り出したが、やはり、バックはできなかった。
「アキラ、車が来たら、止めてくれ」
猿神さんは、リアバンパーにロープを通す。
車の力を借りて、路肩から道に戻す作戦だ。

「了解です!」
が、この車通りの少ない道で、その作戦は可能なのか?
と、見れば、黒い車が目に入る。
オレたちは、なんて、ラッキーなんだ!
車は、ものすごいスピードで、やって来る。
止まってください! 願いを込めて、手を上げる。
が、ダメだ、車は通り過ぎて・・・、んっ? 止まった、そして、バック。

運転席のドアが開く。
出てきたのは、太った男の人だ。
背はオレより少し低いくらいか。
「あれっ?」
にこにこしながらやってくる丸い顔に、見覚えがあるような・・・、でも、たぶん勘違いだな。
「あの、この車を道路に戻したいのです。力を貸してください」
「わかりました。少々お待ちを」
丸顔の男の人は、会釈をし、後ろのドアに手をかける。

後部座席から出てきたのは、すらりと背の高い男の人だ。
その人は、オレの目をのぞきこむ。
「アキラ、だね?」
「そうですが・・・」
「私と一緒に来てくれないか」
「えっ?」
そんなこと、突然言われても・・・。
それに、なぜ知ってるんだ、オレのこと。
この凸凹コンビ、怪しくないか?

「すみません。今、急いでいるので」
「そんなに時間は取らせないが」
と腕を取る男の人の手を、オレは、思わず払ってしまった。
軽く払ったつもり、だった。
が、男の人は地面に転がった。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。