猫アンテナ狂想曲(4/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

依頼主、丹田生代さんは、まだ表に立っている。
「お上がりください」
今度は、すすめられるまま、長靴を脱ぐ。
玄関に上がってすぐの、客間に通された。
出してもらったアツアツの缶コーヒーを、フーフー冷ましながら、飲む。

「早く見つけていただきまして、ありがとうございます。なにか猫捜索のコツや秘密兵器があるのですか?」
「いえ、オレ、いや、ワタシは猫の習性を少し知っているだけです。ハナちゃんは女の子猫ですから、なにかの弾みで外に出てしまっても、そんなに遠くへは行っていないと判断しました。ご近所に潜んでいるのです。ですから、ただ、耳をすましてみただけなんです」
なんてのは、嘘八百だけど、聞かれた場合はこう答えることにしている。

「そうですか。・・・それで、料金はおいくらですか?」
いつもは、無料奉仕だが、今回は、そういうわけにもいかないだろうな。
「アキラ、捜索時間はどれくらいだ?」
猿神さんがオレを見る。
「15分です」
ここから桑本さんのお宅まで片道3分。往復6分。猿神さんがインターホンを押してしまったばっかりに、もたついてしまった時間は7分間。ハナちゃん確保に2分間。

「歩いてきたので、交通費はかかりません。ですから2000円の4分の1、500円です」
オレの弾いたソロバンに、
「探偵事務所からここまでは?」
丹田さんは、往復時間を入れて、3000円の大判ふるまいをしてくれた。
「アキラ、報酬は昼飯でどうだ?」
「はい! ごちそうになります!」
「では、ふくふく亭へ」
「ふくふく亭って、探偵事務所のチラシの置いてある?」
「そうだ。ラーメン屋だ」
「オレ、ラーメン、大好きです!」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。