絵本という名の魔術にかけられて・・・

ムッシュムニエル書影ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします
佐々木マキ 作
絵本館

主人公は、ヤギ。普通のヤギとはちょっと違うヤギ。ムッシュ・ムニエルという名前の魔術師のヤギ。
ムニエルは、子供を一人さらって魔術を教えながら、仕事を手伝わせるために街で弟子探しをするというストーリーだ。
ムニエルは、さっそく街で弟子にふさわしい少年を見つけ、ホテルに戻り、小さなビンを魔術の力でヘンなさかなの姿に変えて空へ飛ばし少年をさらってくるのだが・・・。そこには・・・・!?

長男が生まれるのを機に、僕は絵本をたくさん読んであげようと考え、絵本に興味を持ち始めていた。
ネット等でいろんなレビューを調べ、モーリス・センダックの『まよなかのだいどころ』という絵本を買いに、書店へ向かった。
海外絵本コーナーでお目当てのものを見つけ、何気なしに国内絵本コーナーを通った時に、この『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』がたまたま目に入り、手に取ったのだ。
へんてこなヤギが、ジャグリングのようなことをしている表紙。背景に、外国風の、お洒落な街の風景に、なんらかのPOPさを感じ軽い気持ちで、ついでに購入したのだが・・・。

家に帰りページをめくると、これまで僕が30年ほど思い描いていた「堅苦しい絵本」のイメージが、ぶち壊れたのだ!! 温もりのある手書き感、全体的に丸みがかった作風、枠線、フキダシがあり、マンガ的な要素、日本人離れした色使いのセンス。

一瞬で気に入ってしまって、その日は夜中まで何度もページを眺めたのを覚えている。そして、絵本というものに、僕自身がハマっていくのだ・・・・。
作者の佐々木マキさんは、「ナンセンス」というジャンルでも 有名な作家だ。本書でも、ムニエルが秘密の呪文を唱えるのだが、「ほむんくるす・ほむんくるす・・・・ うまはきゅうりのさらだをたべない」――意味があるようで、意味がないような言葉やレトロ感のある街並に、ちょっとヌケた憎めない主人公のムニエルが、またマッチしているのだ!! どこかに「?」を残して終わるナンセンスな絵本。

僕は、逆にその「?」の部分を利用して、自分の中だけで解読して、その後の物語などを勝手に作ってみるという、違う楽しみ方をしている。簡単に言うと、「ナンセンス」は自由だと思っている。
ナンセンスの感覚は、大人になるにつれ、薄れていってしまうと聞いたことがある。僕たちが、できるだけ子供たちにナンセンスな作品を与えるべきだと考えている。そして、子供時代を経験している大人たちもナンセンスな感覚を思い出して欲しいとも思う。

最後に、本書を購入し後日知ったことだが、佐々木マキさんが最初に絵本を書き始めた頃に、見本にした絵本が『まよなかのだいどころ』だそうだ。
この出来事は、偶然なのか・・・? 運命的なものなのか・・・?
実は、僕自身がムニエルの魔術にかけられしまっているのではないか!?などと、空想の中で、今日も勝手に物語を作り、ほほえんでいるのである。

◆購入サイトはこちらから →ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします

今永ぴっと について

1980年大分県生まれ。 独学で絵を学んでいる。 街角、サブカルチャー、睡眠の中などから、さまざまなインスピレーションを受け、作品を製作している。 大阪、東京を転々とし、現在、二児の父として、工場勤務。 兵庫県在住。