WEB版「カフェとお話と本にまつわるクラフト展」(1/2)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

庭の優雅なお客様

作:田村理江

ナラ林に優しい風が吹く季節です。 開店の準備を終え、キッチンで遅い朝食をとるユナさんは、
「ピクニックにでも行きたくなる陽気ね」
と、窓から青空を仰ぎました。外で食事を楽しめたら、どんなにワクワクするでしょう。
「そうだわ!」
カフェ・ペパミント・スプーンには、狭いながらも前庭があるのです。そこに食卓を作れば、ひととき、ピクニック気分になれるはず。

ユナさんは、丸テーブルを一脚、庭に運び出しました。
開店とともに入ってきた熟年夫妻が、早速、庭のテーブルに気づき、「ここ、いいですか?」
遠慮がちに座りました。そして、
「風も、花の香も、ご馳走だ」
と、大喜び。

いつしか、近所の人や、通りすがりの人たちまで、そこに座って、お茶を注文するようになりました。
オープン・カフェになった庭に、ある朝はやく、優雅な服装のカップルがやって来ました。
黒い帽子に、丈の長い燕尾服の男性と、これまた裾の長いグレイのドレスの女性。恋人同士なのでしょう、テーブル越しに見つめ合い、ほほえみを交わしています。

「ご注文は・・・」
と、ユナさんが外へ出ると、もう姿が見えません。
そんなことが、数日続き、
『きっと、邪魔されたくないのね』
心得たユナさんは、窓からそっと二人を見守るようになりました。

今日の男性は、照れくさそうに黄色い野草を、女性に差し出し、女性はその花を胸に飾っています。
『お茶を頼んでくれないのは、困るけど・・・可愛らしい二人だこと』
身を乗り出したとたん、ユナさんの腕が窓に触れ、かすかにガラス音が響きました。
庭の恋人たちは、慌てて立ち去り、それきり、顔を見せなくなりました。

『もう来てくれないのかしら?』
朝のテーブルには、今日も二羽のオナガ鳥が飛んで来ます。
メス鳥の羽の間に、黄色い花びらがのぞいているのに、ユナさんは気づいたでしょうか?

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。