WEB版「カフェとお話と本にまつわるクラフト展」(1/2)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

まだまだ現役

作:田村理江

最近、ちょくちょく顔を出してくれるお客様は、土田さんという名前で、骨と皮ばかりの、百歳に手が届きそうな老人です。

「ああ、やっぱり、日本茶に限る。この店の茶は、うまい! 湯呑みも実に素晴らしい!」
ユナさんが丁寧にいれるお茶を、いつも大声で褒めてくれます。
陶芸に関心があるらしく、上質な『こんもり山の素焼き湯呑み』が大のお気に入りです。
今日も、ユナさんはその湯呑みを差し出しながら、
「私も好きなんですよ、これ。お茶の色が映えますね」
と、話し掛けました。
「ふむ。陶器の良し悪しは、土の質で決まるのじゃ」

表面をじっと見ていた土田さんですが、
「むむむ」
突然、うなりました。
「どうかなさいましたか?」
「湯呑みにヒビが入っておる」
「すみません、気づかなくて。すぐに新しいものに代えてきます」
揃いの器が、あと4客あるので、それに代えると、
「ぬぬぬ。こいつにも」
出すたびにヒビが見つかり、気付けば全てが壊れ物。

「おかしいわ。大切にしていたのに・・・」
お客様に不吉な思いをさせやしないか、まして、お年もお年だし・・・、
と気にするユナさんに、
「これは、最大のピンチ! わしの出番じゃ」
謎の言葉を残し、カフェから出て行ってしまいました。
そして、再び、ひと月後に現れ、手土産として、ユナさんに新しい
『こんもり山の湯呑みセット』をくれたのです。
土田さんは、
「山の見守り役を息子に任せたんじゃが、開発とやらで山が崩されそうになり、わしの助を求めに来よったんじゃ」
陶器のヒビは、息子の悲鳴なのだと言うのです。
「わしが開発主と交渉して、山は手付かずになった。めでたし、めでたし」
「・・・あなたは、いったい・・・」
「こんもり山の神じゃ。仕事は、まだまだ息子には譲れんのぉ」
豪快に笑って、帰って行きました。
新しい湯呑みはとても丈夫で、カフェ・ペパミント・スプーンのお客様に愛用されています。

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。