WEB版『BOOK&another story』(2/5)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

『ライ麦畑でつかまえて』アナザーストーリー  作・田村理江

ドラ猫も歩かない裏通りの、ぶっ潰れそうな古いバー。冬の夜、オレはクソ面白くもない用事のために、そのバーへ向かっていた。
まぁ、用事ってのは、たいていはクソ面白くもないものなんだけどね。
とにかく寒く、はやく店に入りたかった。カウンターに座ったら、「ジントニック」と叫ぶだろう。安酒でキメられないようじゃ、

一人前の男じゃないからな。

ぼくは12歳で、この冬が終われば、退屈な中学が待っている。全寮制の男ばっかの進学校。
そいつのために百万冊の参考書を攻略して、百万円×いくらかの入学金を用意したなんて、ふざけた話だ。

おお寒い。ムートンの手袋をしてたって、コートのポケットに手をつっこまずにいられない。
けど、邪魔なんだよな、手袋が握りしめてる荷物が。
赤いリボンのついた小箱の中身は、最近ヒット中のアニメに出てくる猫のぬいぐるみで、腹のとこに彼女のイニシャルRが刺繍されてる。
どこにでも売ってるケチな代物だ。けど、女ってやつはリボンさえついてりゃ、中身が石ころだろうが大喜びするもんさ。

Rはオレの女かって? ふざけた質問だな、ただのクラスメート。
蜂にさされたようなほっぺたをした女の、どこに惚れるかってんだよ。
まわりのやつらがちやほやするから、Rは自分がイイ女なんだって勘違いしてやがる。くそくらえ。

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。