WEB版『BOOK&another story』(5/5)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

『悪童日記』のアナザーストーリー  作・田村理江

前の戦争の時とおんなじさ――おばあちゃんは言う。
「札束なんか役に立たん。金持ち連中はこぞって宝石を持ってきては、うちの食糧と取り換えていったんだ」

それって、80年前の話だろう?
でも、ぼくは見た。最近、身なりのいい町の人たちが次々に訪れて、おばあちゃんと何か取引をしてるとこを。
ほら、今日だって、シルクの服を着たご婦人が、戸口でオズオズしてる。ぼくに笑いかける。

「ぼうやはお孫さん? なんて綺麗な顔をしてるんでしょう。天使みたいだわ」

聞き馴れた挨拶に、唇の端だけ反応させ、ぼくはご婦人が期待したとおりの表情を作る。
おばあちゃんに「屋根裏へお行き」と追っ払らわれる前に、階段を駆け上がり、寝転んだままで粘土遊びを始めた。
器用に人形をこしらえながら、「ご婦人に何を渡すのか知ってるぞ」と思う。
解毒剤のカプセルだ。今度の戦争は化学兵器の応酬だから、生きぬくために薬は不可欠。そして運のいいことに、ぼくの家は代々、薬屋。

まだ平和だった頃、国の法律で、全ての薬品を返還するように決まったのに、おばあちゃんはこっそり隠し持っていた。いけないんだ。国に知られたら抹殺される。
けど、密告しやしない。だってぼくも、じいちゃんの墓の下から、毒薬の青い瓶を1ダース、かっぱらってきたんだ。

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。