WEB版『BOOK&another story』(5/5)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

粘土で出来た人形の指先に、その一滴を垂らす。
明日は月に一度のバザーが広場で開かれるから、これを持ってって売る。毎月、そうしてる。SNSで死にたいと書き込む女の子たちが、喜んで買っていく。
指先をなめたら、簡単に夢が叶う。ぼくは天使になれる。

「おお、おまえの部屋は埃っぽい」
おばあちゃんが屋根裏に上がって来て、人形を一瞥した。
「そいつは、おまえとそっくりじゃないか。悪賢い顔だ」と乾いた声で笑う。
ぼくは人形に「クラウス」と名前をつけた。戦争で離ればなれになった双子の兄さんという設定にしよう。
この人形だけは売るのを止めて、ずっと一緒にいるんだ。

戦争がもっとひどくなったり、どうしようもなく寂しくなったら、神様にするみたいに、兄さんの指先にそっとくちづけをしたっていいよね?

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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。