WEB版『BOOK&another story』(3/5)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

ある日の夜中、滑り台の下で寝ていた女の子は、ひそやかな物音で目を覚ましました。

「泥棒!」
すぐそばに、黒い人影。影はビクッとして、「ご、ごめんなさい」と、素直に答えました。
月明りで見えたその人は、ワンピースを着た若いOLさんでした。
「私のこと、覚えてる? 前に、自分の50年分のカードを売りに来たでしょ?」
「ふんふん」
「あの時は結婚式直前にフィアンセに逃げられちゃって、絶望してたから」
「ふんふん」
「でも、フィアンセは詐欺師だったの。それを突き止めてくれた結婚式場のマネージャーと仲良くなって・・・。お付き合いすることになったの。だからカード、返して」
女の子は眠そうな目でおさげ髪をいじりながら、一言。

「売れ残ってたから捨てちゃった」
OLさんが青くなります。でも、女の子は平気な顔。
OLさんが今度こそ、本当に絶望的な様子で泣き出した時、女の子は言いました。
「あれ、ただの落書き」
「だって・・・3年分のカードを買った従弟のお父さん、めちゃくちゃ元気になったのよ」
「それはその人の生きる力。あなた、これから先も50年以上、元気よ」
「ほんと? 安心したわぁ」

翌朝、女の子へお菓子のおすそわけをしようと公園へ寄ったOLさんは、きれいに片付いた滑り台の下をのぞきこんで、夢のような気持ちになりました。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学卒業後、武蔵野美術大学造形学部に編入。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。