ピイの飛んだ空(1/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

「ほーら、いた」
秋斗(あきと)がのぞきこんだ葉っぱのうらには、ねらいどおりに虫がいた。
少年の母親じまんの庭は、草がボーボーで格好のエサとり場だ。
紙コップを虫の下にすえてポンと上から葉っぱをはじくと、あんのじょうちいさな虫はころりと真っ白な容器の底に落ちていった。

「おやつ、かくほ!」
紙コップを両手にそっと持ち、お母さんの居るリビングを通る時間をおしんで庭のさくを飛びこえた。駐車場をバタバタと走ってげんかんにまわる。
おなかを減らしたピイが待っているからだ。
げんかんに飛びこむと、もどかしくかかとをすり合わせてクツをぬぎ、秋斗は出まどに置かれた小鳥の保育ケージに声をかけた。

「ピイ、エサだよ」
すると、ちいさな保育ケージでうずくまっていたかたまりは、秋斗の声に飛びつくように首をのばし、大きく口を開いて鳴いた。

――ピイ、ピイ、ピイ!

とびらが開くのを待ちかねて、ちいさなケージから飛び出したピイは、紙コップをかたむけて転がした茶色い虫を一目散(いちもくさん)に食べにかかった。
いつだっておなかを空かせている、秋斗の育てるスズメの子。
それがピイだった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県在住 会社員勤務を経てフリーライター・(アマチュア)作家 新紀元社WEBサイト パンタポルタで記事・コラムを執筆するかたわら、WEBで小説を発表。公募活動にも力を入れる。『ピイのとんだ空』で日本動物児童文学賞 優秀賞。熊本県民文芸賞では小説部門を二年連続受賞。本賞で2019年に第1席を獲得した『ラスト・オテモヤン』は熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は作品集収録とともに朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、西の正倉院 みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞 大賞など。 児童文学から一般文芸まではば広く手がけている。動物が大好き。犬と小鳥と暮らしている。著書を持つのが夢。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/