「ナイト列車 ドリーム号」~アーシャの力(5/8)

文・泉あおり  

「あ、これ、切符です」
ふと思い出して、ポケットから切符を取ったレン子は、空中でひらひらとさせた。
片桐は前をむいたまま、器用に切符だけをつかみ取ってみせた。
そうしたら、またうめき声がした。
「はぁぁ・・・最悪だなぁ」
とたんに、汽車のスピードが上がっていく。
(なにか、問題でもあったのかな?)

片桐はあせった様子で、銀髪を指でつまむと、今度は早口でこんなことを言ってきた。
「ここはナイト次元。夢の中の小さな空間で、魂の忘れ物がある場所なんだ。言っとくけど、ドリーム号を呼んだのは、キミだからね」

(あー、それそれ! 今から質問しようかなって、思ってたのになぁ)
これでもう、会話の糸口は完全になくなってしまった。
(きっと女子が苦手なのね。わかりましたよ、黙ってますってば。苦手な人を前にしたら、一方的で早口になる人って、いるもんね)

ときおり響く汽笛の音とともに、ドリーム号は無人の駅を何十もすっ飛ばしていった。
いったい、どれだけ時間が過ぎたのか。
もう質問するのはあきらめ、頭で考えていた自己紹介も消去しようと思ったら、今度はドリーム号の速度が落ちはじめたのだ。

泉あおり について

兵庫県神戸市在住。 童話とエンタメ系児童小説を書いています。 趣味は妻とのさんぽ。とくに山から神戸の景色を見るのが大好きです。 日本児童文芸家協会 研究会員