「ナイト列車 ドリーム号」~アーシャの力(8/8)

文・泉あおり  

頭が、混乱していた。
1週間前の出来事は、どうやってもまだ、整理できそうになかった。
炎に包まれた寺院で、ラジープの姿が消えていく光景は、レン子の頭から、まったく離れようとはしなかった。

「――子っっ」
「へっ?」
たか子に呼ばれ、レン子はハッとした。
「朝から、ずっと机でボーっとしてる。映画に行ってから、レン子はおかしいよ」
たか子が眉をひそめて、机のはしを揺すっている。
もう、休み時間だった。

「まったくぅ。レン子が持ってきたあの笛のこと、ちゃんと調べてあげたんだからね」
それは、ラジープと別れる間ぎわに拾った、竹でできた横笛だった。
映画館で目を覚ますと、なんとレン子は、その笛を握っていたのだ。
もちろんたか子もおどろいたが、なにより吹奏楽部を希望するだけに、この楽器への興味のほうが優先されたようだった。

「あの笛、バンスリっていう、インドの民族楽器みたいよ。日本の篠笛とか、ヨーロッパじゃあ、フルートの原型って言われてる」
(そっか、ほんとうに、インドだったんだ)
「まさかレン子も、楽器が好きだったとはね。もっかい、吹奏楽部にいってみる?」
たか子は、一人納得したようにうなずいている。
体験入部でフルートをもったとき、妙に懐かしい気分がしたのは、このせいだった。
「たか子、入部のこと、考えとくよ」

泉あおり について

兵庫県神戸市在住。 童話とエンタメ系児童小説を書いています。 趣味は妻とのさんぽ。とくに山から神戸の景色を見るのが大好きです。 日本児童文芸家協会 研究会員