◆プロの技
那須さんの文章は幼年童話に限らず、どの本もとても読みやすいです。この本も、展開のおもしろさもあって子ども読者はすらすらと読んでいくに違いありません。
ですが、この本にはときどき注釈をつけたことばが出てきます。傍点を打ったことばもたくさんあります。例えば、こんな感じです。
「正法寺の参道(神社はお寺におまいりするため、つくられた道)の おじそうさんから 東に すすんだ」(P52)
「おじいさんは、けげんそうに サムくんの かおを 見ました」(P62)
読点を打って間を置くことで読者の読みを止めながら読むスピードを抑える手法がありますが、難しいことばを入れることでブレーキを掛けることもできます。大事なところが読み流されないようにしているわけで。幼年の読者が登場人物といっしょに謎解きをしながら読めるようにということだと思いますが、こういうのをプロの技というのでしょうね。
この本のもう一つの特徴は戦争を題材にしたミステリーということです。終盤、宝物が見つかると太平洋戦争の話になります。原爆にも触れています。1942年生まれの那須さんは、3歳のときに広島で被爆しています。那須さんがこの本で戦争を書いたのは、近ごろのこの国の状況を心配してのことだと思います。戦争への強い危機感からだと思います。
子どもたちに向けて書いている者として、那須さんのこの思いをしっかりと受け継いでいきたいです。

★野村一秋先生のインタビュー記事もぜひご一読を!
『ミルクが、にゅういんしたって?』著者・野村一秋先生に聞く(1/3)
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『ミルクが、にゅういんしたって?』著者・野村一秋先生に聞く(2/3)
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『ミルクが、にゅういんしたって?』著者・野村一秋先生に聞く(3/3)
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