ピイの飛んだ空(1/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

「ほーら、いた」
秋斗(あきと)がのぞきこんだ葉っぱのうらには、ねらいどおりに虫がいた。
少年の母親じまんの庭は、草がボーボーで格好のエサとり場だ。
紙コップを虫の下にすえてポンと上から葉っぱをはじくと、あんのじょうちいさな虫はころりと真っ白な容器の底に落ちていった。

「おやつ、かくほ!」
紙コップを両手にそっと持ち、お母さんの居るリビングを通る時間をおしんで庭のさくを飛びこえた。駐車場をバタバタと走ってげんかんにまわる。
おなかを減らしたピイが待っているからだ。
げんかんに飛びこむと、もどかしくかかとをすり合わせてクツをぬぎ、秋斗は出まどに置かれた小鳥の保育ケージに声をかけた。

「ピイ、エサだよ」
すると、ちいさな保育ケージでうずくまっていたかたまりは、秋斗の声に飛びつくように首をのばし、大きく口を開いて鳴いた。

――ピイ、ピイ、ピイ!

とびらが開くのを待ちかねて、ちいさなケージから飛び出したピイは、紙コップをかたむけて転がした茶色い虫を一目散(いちもくさん)に食べにかかった。
いつだっておなかを空かせている、秋斗の育てるスズメの子。
それがピイだった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/