いすから去った王子(3/7)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

こうして、白鳥の羽の王子は、いすにすわり始めました。
きらきらした大きな目は、いつも、王女のまどに向けられていました。
どんなにつかれていても、その窓に王女がすがたが映ると、王子の心はおどり、また、勇気がわいてきました。
じっさい、王子は、70日間もがんばったのです。新記録でした。
でも、残念のことに、ある、とても暑い日、いすからころげ落ちて、そのまま、息絶えてしまいました。

「ふむ。期待させおって。ふがいない男じゃ」
王様は、なげき悲しんでいる王子の家来たちに、
「さっさと、なきがらを運び出せ」
と、命じ、お城の者たちには、このことを王女の耳には、決して、入れないように、言いつけたのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに