いすから去った王子(6/7)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

プッププー!
「本日、98日目!」

お城の中では、召し使いたちが、結婚式の準備で、てんてこまい。
台所では、一流のコックたちの手で、だれも見た覚えのないほどのごちそうが用意されています。
プッププー!
「本日、99日目―!!!」

王女様の部屋には、金銀や宝石を、おしみなく、あしらった、ごうかな花嫁衣裳が用意されました。
その美しさときたら、ただ、想像していただくしかありません。
日が落ちると、お城のまわりには、かがり火がたかれ、遠くから、ぞくぞく、やってくるお祝いのお客を、あかあかと、照らします。
一晩中、だれも、眠りません。みんな、朝を待って、わくわくしています。
とても、眠れるものじゃありません。

しらじらと、東の空が明るくなって来ました。
朝はもうじきです。
ラッパ吹きは、最後のラッパを、この先、世界の終わりまで語りつがれるほど、りっぱに吹こうと、めいっぱい、きんちょうして、東の地平に、太陽の出るしゅん間を待っていました。

その待ちに待った100日目の太陽が、地平に、ちらりと、顔を出した時です。
「あ! どうして⁉」
ラッパ吹きがさけびました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに