いすから去った王子(7/7)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

北の王の話

それから、1年ほどたった、ある日、お城にワタリガラスの王子が、ふたたび、やって来ました。
「なんじゃと!」
これを聞いた王様がおこったの何のって!
「今さら、何の用じゃ⁉ さっさとおいかえせ! いや、待て。ここへ通せ。やつの言い訳を聞いてやろう。場合によっては、わしのこの手で、首をはねてやろうぞ!」
というわけで、久しぶりに、ワタリガラスの王子が、王様と王女の前に立ちました。

あの99日間に味わった苦しみは、一生消えることのない、みにくいしみや、深いしわになって、王子の顔にきざまれていました。
けれども、それは、王子の顔を、以前より、ずっと、気高いものにしていました。
頭ごなしに、がみがみ、しかりつけてやろうと構えていた王様は、ワタリガラスの王子の堂々としたものごしに、つい、気後れしてしまいました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに