いったいだれの歯?(1/7)

文・夏美  

フミヤははじめて歯がぬけました。
1年生になったばかりの春のことです。
上の前歯がぬけて、口をあけるとぽっかりとあながあいて、なんだかスースーしてへんなかんじです。

「ぬけた歯、見せてごらん」
お母さんがフミヤの歯を手にのっけて、こう教えてくれました。
「りっぱな大人の歯がはえてくるように、おまじないをするのよ。上の歯がぬけたら縁の下に。下の歯が抜けたら、やねの上に向かってなげるの」

「じゃあ僕は上の歯だから縁の下だね。でも縁の下ってどこ?」
「うちはマンションだから縁の下はないの。おじいちゃんの家にあるわ。にわが見えるへやの外に、少しだけろうかみたいなところがあるでしょ」
「いつもブチがひるねしてるとこ?」
「そうそう。そのゆか下。あそこになげるの。その時に、こう言っておねがいするのよ。『ネズミの歯とかえてくれ』って」
フミヤはおどろきました。

「なんでネズミなの? お母さん」
「強い歯をもってるからよ。なんでもがりがりばりばりかじれるでしょ」
「なるほど」

夏美 について

大阪出身。童話やミステリーが好きで、少年探偵団や少女探偵ナンシーで育ちました。自分もそんな感じの、子供がワクワクできるようなミステリーやサスペンスを書けたらいいなあと思っています。ようやく落ち着いてパソコンに向えるようになった主婦です。尊敬する人はグラン・マ・モーゼスです。