がめ島うらしま館(8/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「今のうちだよ、大ちゃん!」
大介は、あらん限りの力でおよぎ上がります。
竜はたけりくるって、人魚たちをしっぽでなぎはらい、きばでかみ殺していきます。
「人魚、もっと、出て!」
死んで、木の葉のように、ひらひら、しずんでいく人魚たちがかわいそうだとは思いながらも、美里は指がいたくなるほど、タブレットの画面をたたき続けました。


「だめや、みーちゃん、あいつ、強すぎ。追いつかれる!」
「ああ、残っているのは酒だるだけ」
いのるような気持ちで、美里が酒だるのアイコンをタップすると、竜の頭上に酒だるが現れ、バチンと割れて、青色のものが水中に広がりました。
それが竜の顔にかかると、とたんに、竜はおとなしくなり、くねくねと、体をゆらし始めました。

「よっぱらっている。今のうちににげて!」
美里は受付のタブレットをスタンドからはずし、それを持って通路をかけぬけ、水そうのガラスにはりつきました。
じきに、美里の見えるところまで大介がおよぎ上がってきました。
ところが、ふらふらしながらも、竜がなおも追いかけてきて、大介の足にくいつこうとしました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに