ことばのつけものやさん 4/5

文・中村文人   絵・堀江篤史

「おい、リス。このやろう、この忙しいのに、どこにいってた?」

お店に帰ると、さっそくイノシシ店長のきついことばがとんできました。

「あの、あの」

「ほんとうにおまえは、はっきりしねえな」

イノシシ店長は、リスくんをばかにしたように、そっぽをむきました。

リスくんは、ひるむことなく、店長の前にぐいっと進み出ました。

「おいしいつけものをみつけたので、ラーメンにそえてはどうかと思いました。で、そのつけものやさんをつれてきたのです」

シカさん、タヌキさんがびっくりするほど、リスくんは大きな声ではっきりいえました。

「そ、そうか。じゃあ、店の中へよべ」

イノシシ店長もおどろいた顔でいいました。

「へーい、店長さん、このたくあんをどうぞ」

ヤギさんは、たくあんをさしだしました。

「お、うまそうじゃないか。色もいい」

イノシシ店長は、つけものをいっぺんに口にほうりこみました。ボリ、ボリ、ボリ、ボリ。

「うまいな。これをオレ様の世界一うまいラーメンにつけると、うまさがもっとひきたつな。よし、じいさん、ウチととりひきするか」

「まいどありがとうございますぅ」

ヤギさんは、ふかぶかとおじぎをしました。

「じいさん、オレのラーメンはびっくりするほどうまいぞ。つくってやるから食っていけ」

――おかしいなあ、イノシシ店長のことばはいつものままだぞ

リスくんはヤギさんをそっとみました。ヤギさんはお店のカウンターのはしにすわって、ニコニコしています。

プルプルルー、プルプルルー。

お店の電話がなり、イノシシ店長がでました。

「あ〜ら、ネコ山様、店長のイノシシでございますわ。おせわさま。あしたの予約? いやだあ、あたしったら、すっかりわすれてるう。4名様で12時からですね。おまちしてますわ」

お店の電話がなり、イノシシ店長がでました。

――うひゃー、なんだ、あの「おねえことば」は。あのつけものがきいたのかな?

リスくんは、ヤギさんのほうをみました。

ヤギさんは、うっとりしながらチャーシューのにおいをかいでいます。

「おい、リス、なにしてんだよ! さっさとどんぶりを洗え、このやろう」

イノシシ店長は、リスくんをにらみました。

――あれ、おかしいなあ? 店長にもどってるぞ。もうききめはきれてしまったのかな

そのとき、サルさんが配達にきました。

リスくんが箱の中を見ると、ラーメンのめんではなく、うどんが入っています。サルさんは、びっくり。リスくんも、青くなりました。

「おい、リス、どうした?」

「て、店長、うどんがきてしまいました」

リスくんは、ブルブルとふるえました。イノシシ店長の怒る姿が、目に浮かんだからです。ところが……。

「だれにでもミスはあるものだ。すぐとりかえるように手配したまえ、リスくん」

イノシシ店長は、こんないい方をしたことはありません。みんなは、店長の方を見ています。

「なんだよ、みんな。さっきからじろじろ見やがって! やい、リス、文句あんのか」

イノシシ店長は、リスくんに近づき、むなぐらをつかみました。

「ぼ、ぼくはなにも、ご、ごめんなさい」

リスくんは、目を真っ赤にしてふるえています。

ところが・・・。

「あら、いやだ、リスくんったら、こんなにふるえて~。もう、こ・わ・が・ら・な・い・で」

イノシシ店長は、リスくんのあたまをなでなでしました。

 

「店長、開店の時間です」

外では、ラーメンを食べようとお客さんがならんでいます。お店が開きました。

「チャーシューメンください」「特製ラーメン、大盛りで」「ぼくはモヤシ多めで」

お客さんはおいしそうに食べていますが、みんなだまって食べています。話しながら食べたり、笑ったりしようものなら、イノシシ店長は「だまって味わえ」と、どなるからです。

「ごちそうさま」

うさぎさんが食べ終わりました。

「うさぎさん、店長が怒るから、チャーシューを残さず食べてくださいよ」

リスくんが、うさぎさんの耳もとでそっといいました。

「おい、リス! なにこそこそ話してんだよ」

店長は、どんぶりをうばいとりました。

「おい、チャーシューを残すような客は、もう食いにこなくていいぞ」

イノシシ店長は怒りで目をつり上げています。

リスくんは、心ぞうがバクバクとしてめまいがしてきました。そのときです。

「チャーシューやスープはこんなにおいしそうなのに、ラーメンになると、何かたらんのう」

ヤギさんが、カウンター席でつぶやきました。

「やい、じじい、もういっぺんいってみろ」

「ああ、なんどでもいうよ。これで世界一うまいラーメンとは、あきれてものがいえんわい」

「なんだと! このじじい」

イノシシ店長は、怒りで体がふるえています。が、店長の様子が変です。

いつもなら、気に入らないときは、お客さんでさえも店から追い出すはずなのに、いまは、頭をさげたままなのです。

「な、何が足らないだ。教えてくれ」

「ことばじゃ。味にはのう、ことばのスパイスが必要なんじゃ。店長、アンタはきついいいかたばっかりだ」

「きついいいかたばかり・・・」

「そうじゃ。『まいどありがとうございます』『お味はいかがですか』というお客をもてなす心のこもったことばが、なぜいえんのかな」

「心のこもったことば・・・」

イノシシ店長は、くちびるをかみしめました。

「それがなければいつまでたっても、ほんとうにうまいラーメンはつくれんぞ」

ヤギさんのことばに、店長はがっくりとひざをつきました。