ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(3/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「この花盛り町大字細八字猪甲乙にあの世から帰ってきたばかりのもんは、生きとるのか、死んどるのか、たぶん、自分でも区別がついとらんようや。精霊舟に乗って送られる頃には、自然とわかるみたいやけどな」
「はあ」
「そやから、本人たちが、自分で気がつくまでは、こっちも、生きてるように接してやる。それが、ここ、」
「花盛り町大字細八字猪甲乙の、風習なんですね!」
「そうや」

「そこまでは、わかりましたが、なぜ、あたしひとりでは、見せてもらえないんですか?」
「あのな、魂送りを見るだけやったら、結界を突破して、もう、ここ、花盛り町大字細八字猪甲乙に入ってしもたキツツキにも出来るやろうけど。おまえ、メインなエベントに参加したないか?」
「メインなエベントってなんですか?」
「精霊舟を沖まで送っていく、お曳舟に乗りたないか?」
「って、そんなもん、乗りたい!!! に、決まってるじゃないですか!」
「しかしや、お曳舟に乗れるんは、新盆を迎えた家のもんだけや」

「あのー、 新盆ってことは、ここ1年のうちに、亡くなった方がいらっしゃるってことですよね? それに、新盆を迎えた家の人、ってことは、新盆を迎えた家の人じゃない、あたしは、完っ璧、お曳舟に乗れない、って方に入ってますよね?」
がっかりだ。
「それなのに、お曳舟に乗りたくないか? だなんて、思わせぶりな言い方、
ひどいじゃないですか! あたし、もう、帰ります」
と、残ってるスイカにかぶりつく。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。