ぼくたちは夏の道で(10/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

山野辺さんと黒岩さんの不器用過ぎた恋が、この後、どうなるかは、わからない。
けど、思い違いや誤解はとけて、ふたりの間のわだかまりは霧散した。
ホッとしたような、さみしいような、ちょっと複雑な気持ちのぼくに、こんどは、黒岩さんが、山野辺さんの状況を話してくれた。

「おばさんから聞いたのだが、みーちゃんは蝶の研究者になっていた」
珍しい蝶の観察のために海外に行き、幾日もかけ、いくつもの飛行機を乗り継いで帰ってきた山野辺さんは、パピの失踪を知った。
機内で論文を書き続けていたようで、極度の睡眠不足の上の時差ボケ状態。
「パピーっ! と叫んで眠りこんでから、すでに1日半、経つそうだ」

黒岩さんの話から、山野辺さんの爆睡の原因もわかった。
1日半ということは、昨日の朝、自分がユーレイだと気づいたと言っていた山野辺さんの言葉にもぴたりと当てはまる。
「でも、なぜ、そんなことになっちゃったんでしょう?」
「ぼくは思うのだが、みーちゃんは、パピを捜しに行きたいのに、体は限界で。それでも捜したいという強い意志が働いて、体から魂が抜けだしたのではないかな」

黒岩さんの推察に、
「驚き桃の木さんしょの木! でも、一理あるな」
と山野辺さんは、つぶやいた。
そして、安心したように、息をふーっと吐き出した。
「如月くんに、つらい仕事をさせなくてすんで、よかった。・・・パピのこと母に伝えるなんて、しんどいに決まってるから・・・」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。