ぼくたちは夏の道で(11/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

パピも見つかり、思い残しもなくなった山野辺さんだが、まだ、高校生の姿で、ここにいる。
「山野辺さん、山野辺さんの実体、と言うのも変ですね、・・・眠っている山野辺さん、おかあさんに起こしてもらってもいいですか?」
「うん」
「黒岩さん、おかあさんに、頼んでください」
「了解!」
と玄関に向かった黒岩さんは、戻って、ぼくに耳打ちをした。
「ぼくも会いたかった。あの頃のみーちゃんに」
去っていく黒岩さんの、大きな背中を見ながら、思う。

山野辺美好さんが、
大人になった山野辺さんが目をさましたら、
ここにいる山野辺さんとは、さよならだ。
泣きそうだけど、ぼくは、泣かない。
すごく、すごくさみしいけれど、
笑って、さよならと言おう。

でも、そのタイミングは、いつなのだろう?
いや、タイミングなんて、測れない。
それは、たぶん、突然やってくる。
山野辺さんとの別れも、さっきのパピみたいに・・・。
ぼくは、じっと山野辺さんに視線を向ける。
山野辺さんも、ぼくに視線を向けている。
別れの時は、刻々と近づいている。
ぼくは、笑顔を顔に貼りつける。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。