ぼくたちは夏の道で(11/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

すーっ。
はーっ。
ぼくは、気持ちを整える。
「黒岩さん、ぼくたちは、これで」
かがみこみ、チャッピーを抱き上げようとした時だった。
「どうしたもんだろう?」
上から声が、降ってきた。
「その声は・・・」
と見ると、山野辺さんが、立っていた。
何度も眠っている自分の体に入ろうと、チャレンジしてみたそうだ。

「でも、戻れないそうです」
怪訝そうに首をかしげる黒岩さんに、山野辺さんの状況を伝え、解決策を考える。
「・・・強い想いがあったから、体から魂が抜けたのだとしたら、」
と、ぼくは考える。
「うん、うん」と、目を輝かせる山野辺さん。
「だとしたら?」と、身を乗り出す黒岩さん。
「体に戻るのにも、なんらかの強い想いが必要なのではないでしょうか?」
「一理、あるかも」
「ああ、なるほど」

「山野辺さん、なにか念じてみてください」
「うん、たとえば?」
「それは名案だな!」
「たとえば、たとえば、黒岩さんと一緒に花火を見たい、とか?」
「て、テレるじゃないか」
ほほを染める黒岩さんの横、
「やってみよう」
山野辺さんは、必死で念じているようだったが、
「だ、だめだ・・・。このデカい黒岩金太と一緒に花火を見る映像が結べない・・・」
ふーっと息を吐き出した。

「大丈夫ですか、山野辺さん。あ、あの、黒岩さん、気にすることは、ないと思います」
「失敗なのか?」
がっくりと、肩を落とす黒岩さん。
しかし、1秒もしないうち肩がびくんと跳ね上がる。
「幸太くん、ほら、あそこに! ・・・噂をすれば影って諺もあなどれないな。昔の人はたいしたものだ」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。