ぼくたちは夏の道で(4/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「黒岩さん、ラブちゃんを、じゃない、車を止めてもらえますか?」
頼んでみたけど、猿神さんとナビ論展開中の黒岩さんに、ぼくの声は届かない。
しかたなく、ぼくは、声を張り上げる。

「く~ろ~い~わ~さーーーーんーーー!」
「は~い、こちらく~ろ~い~わ~、どうかした?」
「あの、車を止めてもらえますか?」
ふたたび、頼む。

しかし、繰り返したぼくの言葉は、ふたりに同時に打ち返された。
「もう、止ってるよ」
「目的地だ!」
って、さすが周辺からは、近いんだ。
気がつけば、車は、門をくぐり、玄関の脇につけられている。
急いで、車から、降りる。

「では、行ってきます!」
夜のひとり歩きは、得意じゃない。
けど、でも、しかし。
ぼくは、なにが、気になったのか?
確かめずには、いられない。

「幸太、行ってきますじゃなくて、ただいま! だろうが」
猿神さんが、じろりと睨む。
「ですよね、先輩。ただいま!」
黒岩さんが、うんうんと、うなづく。
「黒岩、おまえは、さよなら、でいい」
「そんなー、先輩、ぼくをひとりにするんですかー?」
「って、おまえ、帰らないのか?」
「帰らないに、決まってるじゃないですかー」
猿神さんと黒岩さんが、言葉を投げ合っているうちに、ぼくは、そっと、門を出た。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。