ぼくたちは夏の道で(4/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「幸太、チャッピー」
「幸太くん」
うるさいコンビが現れたから。
遠くにいるのに、声ははっきり届く。
「鍋が冷めるぞ! 黒岩が作った寄せ集め食材鍋が! 真夏にアツアツ鍋って、黒岩、おまえ、どういう神経してるんだ?」
猿神さんが、文句を言い、
「どういう神経って・・・、先輩だけには言われたくありません! それに寄せ集め食材って、先輩がぼくの車の中の非常食をかっさらったんじゃないですか! 先輩んちの冷蔵庫、空っぽですから」
黒岩さんが、打ち返す。

「そうです! そうです! 黒岩さん。真夏に、エアコンの効かない台所で、アツアツ鍋ってぼくも、確かに、黒岩さんの神経は疑います! しかし、もっと暑い時刻に、ぼくにアツアツのぜんざいを食べさせた猿神さんに、黒岩さんの神経を、どうこう言う資格はないと思います」
と、ぼくも、一緒に打ち返したかった。
けど、やめておいた。

話が、ますます、ややこしくなりそうだから。
「それに、猿神先輩、鍋はチャッピーの部屋で食べればいいでしょう。あそこだけは、エアコン、買い替えていたじゃないですか」
なるほど。
黒岩さん、一瞬でも、神経を疑ってしまって、ごめんなさい。

「まあ、そういう手もありだな。鍋は、チャッピーの部屋で食べよう。とにかく、幸太、ハウスだ、ハウス!」
「そうですよ、先輩。さあさあ、幸太くん、カム バーック!」
ぼくは、犬でも、シェーンでもないけれど、
「はい、すぐに!」
ここは素直に返事をし、山野辺さんに、視線を戻す。
と、そこには、だれもいなかった。
ぼんやりとした街灯が、辺りをぼんやり照らしているだけだった。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。