ぼくたちは夏の道で(9/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

ノーミソの受け入れ態勢も、徐々にできてきた。
しかしもっと、すっきり、ぱっきり、しなければ。
「頭を整理してみませんか?」
「うん、そうだな」
山野辺さんは、こめかみにグリグリこぶしを押し当てながら歩きはじめる。
ついて行くと、裏庭にでた。芝生があって、色とりどりの花が咲いている。表とは違った感じの広い庭だ。

「・・・黒岩金太はわたしより1学年下になる。あいつが28だと言い、わたしに29の記憶があるということは、わたしがあの世に行ったのは、昨日今日ではないけれど、最近だと言ってもいいかもしれない」
山野辺さんは、ところどころに配置された石に腰をおろす。
ぼくも、並んだ石に腰かける。

「それでは、29歳だった山野辺さんが、なぜその姿で、コスプレ感はまるでない高校生そのものの姿で、この世に出現したのか?」
「出現って、人をバケモノみたいに・・・。あっ、でも、そうちがいはないか」
「いえいえ、バケモノとユーレイはちがうと思います。って、もう! 話を続けていいですか?」
「うん」
「その頃に、高校時代に、思い残したことがある、とか? あとは・・・、そうだ! 向こうの世界に行く瞬間に、走馬灯のように浮かんだこととか、覚えていませんか?」

「走馬灯話は定番なんだろうけど、よく覚えていない。・・・が、思い残しは、あるといえば、ある・・・」
「それです! きっと!」
「・・・そうだろうか? あくまで推測だけど、先にあの世に行っていたわたしは、パピを迎えに来たのだろう、とは思う」
「はい。そして、山野辺さんは、パピを向こうに送ってあげました」
「そのついでにって感じで、残した思いをなんとかしてもいいのだろうか?」
「・・・この際だから、いいんじゃないでしょうか。なんとか、しちゃいましょう! ぼくにできることは?」
山野辺さんは話すのを躊躇してるのか、ぎゅっと唇を結んでいる。

「あの、いやじゃなければ、言っちゃってください」
ぼくは、背中を、押してみる。
「・・・あいつに、聞いてほしい」
「はい!」
「あの夜、夏祭りの花火の夜に、どうして待ち合わせ場所にこなかったのか」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。